時は2015年。
念願の大学に入学し、様々なサークルの勧誘を受けたこばたく少年は、その中で「キャンプをしながら自転車で全国様々な場所にいく」サイクリング部という部活に憧れた。
「自転車でどんなところまでも行ける」
そんなロマンに見せられた大学一年生の少年は、入部して半年ほどが経った秋頃、自転車で登山に行く計画を実行に移しました。
今回はその3年後、自転車で世界一周を決断した少年の初めての自転車冒険譚を、当時の写真と日記を振り返りながら語っていこうと思います。
目的
皆さんは「おおかみこどもの雨と雪」という映画をご存知だろうか。
この映画は2012年に公開された細田守監督によるアニメ映画で、人間の女性・花とオオカミ男の間に生まれた兄妹、雪と雨の成長を描いた物語。父を亡くした一家が田舎に移り住み、自然と向き合いながら、子どもたちが「人間」と「オオカミ」という二つの本性の間で揺れ動き、自らの生き方を見つける感動の成長譚です。
美しい自然の中ではしゃぐオオカミと人間の家族の様に感動した私は、
いつかこの映画の舞台を見に行きたい...!
そう強く思っていました。
この映画の舞台は富山県の立山に固まって存在しています。
映画公開から3年後、サイクリング部に入部し、「ロードバイク」という移動手段を得た私は、紅葉が色づき始めた10月。この映画の聖地巡礼を実行に移しました。
Day1
午前3時
初めての一人旅に早く起きてしまった。遠足前の小学生か。
自転車に荷物を積んで出発。
地元安曇野から糸魚川沿いに下り、朝8時頃には富山に入っていた。
この時点で80kmほど移動しているが疲労は皆無。降り貴重だったということもあると思うが、初一人旅のワクワクが身体を動かしていたことは間違いない。
日が出てすぐにヤマザキショップで食べたよもぎもちに感動した。
このよもぎもちをその後数年は富山県名物たと思っていたことはナイショ。
富山にはいるといよいよ聖地巡礼が始まる...
富山県滑川市立田中小学校
雨と雪が通っていた小学校。
昭和11年に建てられた木造校舎で、76年間にわたって現役の校舎として使われていたそう。調べたところによると、細田監督の出身校でもあるようです。
木造の古い校舎は作中のイメージにぴったりだと思った。
作中と同じカットの場所は、外からは見つけられなかった
簡素な昼ごはんでも...
お昼は地元のドライブインでかき揚げうどんを食べた。
いかにもドライブインででてきそうな食べ物だが、初めて一人で自転車で遠出して食べた初めてのご飯は沁みるものがあった。
花の家
一家で生活していた家。
今回の旅の目玉でもある。なぜなら、この家は細田監督が初めて見た時に惚れ込んで舞台に選んだ建物であり、劇中ではこの家そのままをモデルにしているのだから。
ただし、、
この家にいくのは、自転車では一苦労。
民家はごく稀にしか現れないような山道を登っていく。
そんな山道を登ること小一時間。
必死に立ち漕ぎをしてなんとか進むような坂道を登り舞台の家へ。
内部も映画そのものの作り。
囲炉裏やキッチン、お風呂と全てが劇中と同じで感動した。
訪れた方のコメントを残すメモ帳があり、このキャンバスのノートの表紙は、細田監督直筆の絵が描かれていた。
細田監督の地元ではあるものの、この片田舎に監督直筆の絵があることに感動した。
このノートに自転車できたことと、初めての一人旅にこの場所を選んだことを書いた。
感極まって結構長文で書いてしまい、今書きながら当時書いた言葉を見返すと恥ずかしさを感じる。
最後は管理人のおじいちゃんと写真を撮って名残惜しさを感じつつ、この家を後にした。
最高の温泉
花の家を去る頃にはもう夕暮れ。
麓まで下りではあるものの、1日の疲れを嫌せる唯一の場所「温泉」までは15kmの登り。
沈んでいく太陽を見ながら、3時起きで200km近く自転車に乗っている身体に鞭を打って坂を登った。
このあと、疲れで湯船に沈みかけながら入った温泉の気持ちよさに味を占めた私は、この後の自転車旅で、部活の同期の誰よりも温泉を愛し、日本中の温泉を巡ることになる。
初!ひとりぼっちの夜
疲労困憊の私は、近くの駅の外にあった、人目につかないベンチの上にマットと寝袋を引き、一夜を明かした。
10月という決して暖かくはない時期の初一人野宿。
不安で夜も眠れない...!
…ことはなく、寝袋の暖かさとこの1日の充実感に浸りながら、ぐっすり眠りましたとさ。
Day2
翌日は4時起き。他の方の迷惑にならない時間に出発し、最後の目的地を目指した。
なにせこの目的地は北アルプスの一部であり登りは不可避かつ、この日には家まで戻らなければいけないのだから。
称名滝
初一人旅最後の目的地は「称名滝」という、北アルプスの山間にある落差350mの大瀑布。
作中ラストの感動シーンの舞台でもあり、ここを避けてこの作品の聖地巡礼をしたとは言えない目玉スポットだ。
しかしながら道路を走れるとは言え、あくまで北アルプスの山間。
当然登りは避けられない。
移動距離の長さを踏まえて早朝に出発したのはいいものの、まさかの入口のゲートが6時まで開かず通れないという事実が発覚した。
前日の移動で体力が削れているかつ、この日の移動距離も考えると大きな痛手。
明け方の寒さも相まみえて絶望していると、近くにいたトラックのおっちゃんが助手席に入れてくれて、ゲートが開くまでの時間を温かい社内でココアをいただきながら過ごした。
これから今日に至るまでの10年の自転車旅経験で、本当に多くの方々に優しくしてもらってきたが、これが初めて自転車旅だからこその優しさに触れた瞬間だった。
旅でお世話になった全ての方々に感謝しているが、この初めていただいた自転車旅でいただいた優しさは、今でも私の胸に特に深く刻まれている思い出の一つだ。
朝6時。ゲートが開く。
いただいた優しさパワーで登ること2時間。
右手に見える「悪城の壁」を見ながらついに称名滝の麓の駐車場にたどり着いた。
ここまでの道も紅葉していた。これは滝の景色にも期待できそうだ。
そこから歩くこと20分。
たどり着いた滝壺から見えた景色は...
落差350m。大迫力の滝を彩る断崖絶壁の紅葉。
劇中のラストシーンを上回る綺麗さに、劇中の登場シーンと比較することも忘れ、この滝に圧倒された。
本当に、初一人旅をこの場所にして、こんな景色が見られて本当に良かった。
この時から私は自転車旅での大きな目的地には「景色の綺麗な場所」を第一に計画に組み込むようになった。
この好きな映画の舞台になった場所や、絶景を楽しんだ余韻に浸りながら家までの180kmの道を自転車に乗った。
この余韻に浸れば余裕だった..!
と言いたいところだが、残念。
海岸沿いの糸魚川から北アルプスの麓安曇野までの道は当然登り。
真っ暗になりクタクタになりながら帰宅した後、家で食べたとんかつもまた、本当に美味しかった。
初一人旅 まとめ
自転車旅により受ける人の優しさ
自転車で訪れる絶景
自転車で移動するからこそ最高になる、温泉や飯。
この旅で知った自転車旅の魅力にのめり込んだ18歳の少年は、3年後休学して自転車世界一周に挑戦することになる。
この初一人旅が、私を形成する経験や実績の「原点」になったことはいうまでもない。